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ニュース54-05 連載
インターネット Nektons 電子会議室 0号室より

インターネットOWS不定期講座 vol 1.
トラジオン石井

「水温について考える」

 北極海に近い北欧のフィンランド(だったと記憶しています。間違っていたらゴメンナサイ)では、氷を削って25mのプールを作り、そこで25m競泳というレースがあるそうです。
 もちろん水温は、ほとんど0度ですから、種目も25m自由形のみ。それに参加する選手は顔を水につけず、顔上げ平で泳ぐそうです。世界で最も水温の低い水泳大会だと思います。
(この大会については、藤原親分のほうが詳しいのでは・・・)
 真冬の氷の張ったプールで、私の先輩は25mをクロールで泳ぎました。それはまるで南極の氷の原野を進む、砕氷船のようでした。
「どうでした?」と私が聞くと、「痛い!痛い!」と叫びながらシャワー室に消えました。
 こういうのを見るのは好きですが、参加するとなると・・・「ウ〜ン・・・」、考えてしまいますね。
 文献をひもとくと、「水泳に適した水温は、23度以上、24度、25度が適温で、初心者や障害者はそれより高いのが良い・・・」とありました。
 我々が普段練習している温水プールは、約30度。競泳の選手は、統計的に23度くらいを好んでいますが、確かに30度もあると練習していて暑くなります。
 しかし、10時間も泳いでいると、30度でさえ寒く感じます。それではどうしてドーバーを泳ぐチャネルスイマーは、20度以下の水温で10時間くらい泳いでいられるのでしょうか。
 今日はその辺を考えてみましょう。

1.温度について
・摂氏とは: 我々が普段使っている温度で、水の氷点を0度とし、沸点を100度として等分したもので、皆さんご存じの通り、「C」で表現します。
・絶対温度: この宇宙全体の中で、物理・化学的に、「これ以上低い温度はない」と言う点を0にします。等分は摂氏と同じ等分を使用し、「K(ケルビン)」で表現します。
 ちなみに、摂氏0度は、273.16Kです。
・華氏とは: アメリカあたりが常用している温度で、氷点を32度、沸点を212度として等分したもので、「F」で表現します。
 ちなみにF=(9/5)C+32ですが、単純にFの温度を2で割って、更に10を引くと、Cの値に近くなります。(通常の温度のみ)

2.水温(摂氏)
 学校のプールでは、授業で水泳を始めるには、水温と気温の値の合計が50度を越さないと行なわないそうです。
 よく観察していると、平均気温は水温に一致しているようですので、水温が25度なら、昼間の学校のプール付近の気温は25度以上ありますので、心配は無いようです。
 このように水温と気温の合計値は、表現するのに非常に都合が良いので、これから先は合計値で話しを進めていきましょう。
 皆さんの普段練習している温水プールは、たぶん室温が30度くらいある常夏の環境だと思われます。すなわち合計値60度ですね。
 50度以上は環境が良いわけですが、40度くらいでも競泳の選手経験のある者なら好んで泳ぎます。
 では30度になるとどうでしょう。
 実はドーバーの環境がこのくらいの数字です。昼間は気温が上がるため、40度くらいになりますが、夜間はグッと冷えて、20度くらいまで落ち込みます。
 夜間から昼間にかけて泳いだ経験のある者ならご理解いただけるかと思いますが、「太陽の恵みがこれほどありがたいものなのか」と実感する一瞬です。
 逆に言うとドーバーを狙う者は、合計20度くらいの経験を1度はしておかないと、ショックでギブアップになりかねません。実はドーバーの失敗例のほとんどがこれだからです。

3.低水温対策
 冬、帽子をかぶる、かぶらないでは、服1枚分の差を感じるのは、帽子をかぶる方にはとっくに承知のことと思います。
 どうも頭が寒く感じることに大きな問題があるように思われます。
 実際、「寒い」、「暑い」を感じているのは脳です。
 お風呂で長湯のコツは、「肩までつからない」です。私も水泳指導員として1年中プールにつかっていますが、冬、寒くならないコツは、シャワーを浴びたら素早く髪をふいて、シリコンキャップをかぶる。そして「肩までつからない」です。すると5時間くらいまでなら寒くありません。
 水温15度くらいの冷水で、不用意に泳ぎ出すと、耳に水が入ります。それはそれは耳に入る冷水の不快感と言ったら、かき氷のドカ食いをして、耳に「キーン」と金属音が鳴りだし、「ブルブル」が「ガクガク」になって、途端に寒くなります。
 言い換えれば、「頭を冷やすな」となるわけです。

4.そこで登場する低水温お助けグッズ。
・スイミングキャップ: メッシュはダメ。頭の痛くならない限り、厚手のゴムのシリコンキャップが良いでしょう。それで耳までかぶる。
・耳栓: 薬局店に、「シリコンの耳栓をください」と言って買い求めると、粘土状(初めは棒状になっている。これをコネて耳に入れると、耳の穴と同じ形状になるので不快感が無い)の物をくれる。これがお勧め! (4本入りで700円くらい)
・泳ぎ方: 口や鼻に水を入れないよう泳ぐ。
・油類: ワセリンやラノリンは、摩れる場所に塗る程度。たっぷり塗って泳ぐ者もいるが、効果のほどは疑わしい。
・ウエットスーツ: ドーバーでは認められていない。着用無しが基本。
・気持ち: 冷たさは物理的なので、慣れと諦めしかない。むしろ上がったときに自分を温めるホットグッズを用意しておいて、「飴と鞭」状態を作って、上がってからを楽しむようにする。(ちょっとSMかな・・・)

5.アフターケア
 上がってからの楽しみだし、次回の練習の引き金になるので重要。
 物理的な冷たさからの開放は、単に心理面だけでなく、身体的なケアも含めて重要です。
・温かいシャワーを浴びる: 40度くらいの温水をジョーロなどに入れ、頭からかけてもらう。(カラダにしみるほど気持ち良い)
・水分を全て拭き取る: 早いうちに水分を拭き取り、水着は脱ぐ。乾いた服に着替え、頭は当然ニット帽をかぶる。手袋、靴下当たり前。
・温かい飲み物: 最近カラダの温まる、「ホット・・・(商品名)」の粉末(成分は体液に近い)が販売されています。これを50度ほどのお湯で溶かして飲む。
・焚火: ボーボー燃える焚火より、炭のように燃える焚火のほうが、遠赤外線効果で真まで温まります。
心理面: 「寒い」と火のそばでじっとしているより、「寒くない」と火から少し離れてカラダを動かしているほうが、早く復活すると思われます。
注意: クルマのエンジンを回して暖を取る方法がありますが、1度温まってしまいますと、2度と外へは出たくなくなってしまいますので、最後の手段にしましょう。

 この他、温かいスープや鍋物などを作って、食べたり飲んだりすることも楽しみです。
 ようは楽しみを作って、泳ぎ終わったときのケアに努めるべきです。

 以上は経験や体験から述べさせていただきました。皆さんの中には、「もっと良い方法がある」と、ご存じな方もいらっしゃるでしょう。こんな方法、あんなノウハウをご存じな方がいらっしゃれば、教えていただきたく思います。

「寒かったらスニーカーを履いて、ジョギングしなさい」と、要項に書いてあるレースもあるそうです。おもしろそうですね。
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