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1996 シェフィールド世界マスターズ

オープンウォーター 5km に参加して

森乙彦

96年世界マスターズ・スイム大会はイギリス・シェフィールド市でこの6月開かれた。私は今年還暦60歳。何かの記念と思い参加した。ロンドンでの2日間は、ウィンブルドンで伊達、沢松の一回戦突破を応援して大いに励まされ、国鉄に乗り会場入りした。

シェフィールドからバスで1時間、ノーギンガムのレガッタコースがオープンウォーターの会場であった。ここはゆるやかな丘や平原に緑が鮮やかな美しい田園でロビン・フットが活躍した場所として有名。

当日の天候、雨、気温17度、水温19度。冷たい冷たい状況であった。長そでシャツ・セーター・ヤッケが人々の服装である。私の確認した範囲で出場者は25歳から78歳の男女450人。日本人は男性4人、女性3人だった。

ウエットスーツ禁止にて、それぞれ寒さに対抗してワセリン等オイル類を塗り、外国人の多くは手足の指に一本一本バンソウコウを巻き付けそなえた。私はオイルの上に一味唐がらしを一本かけ暖をとる作戦をとった。

若い人から9組に分かれ(ウェーブと言っていた)スタートした。私は8ウェーブ、約1時間後にスタートした。クロールでゆっくり、調子の出るまでゆっくりと抑えて泳いだ。私の故郷信州の野尻湖 10km 遠泳を毎年8月5回連続完泳している。いつも冷夏と冷たい水・雨、霧の中も経験して自信を持っていた。

15分位だろうか。いつもなら身体が温かくなる頃であったが、まず、足の指先10本がシビレて感覚が無くなってきた。すぐ手がシビレてくる。氷のようだ。又10分泳ぐ。目が見えなくなって「かすん」でくる。自分がコースを泳いでいるのか、まっすぐなのか、間違ってスタート方向へ逆行しているのか判断が付かない。自分はこの一種目だけの為にこの遠い国に来ているのではないか。頑張れと叫んでみた。昨年の熱海 3.2km も寒かったが完泳できたではないか。約1500m 、心臓が大丈夫か、ヒマラヤで登頂に成功して後死んだ女性のことが頭をよぎる。からだが、腕が動かない。

リタイヤすることに決めた。ライフガードのカヌーにつかまった時、まったく疲れていないのが残念であった。

スタート2時間後ゴールで私のウェーブの青色のキャップを着けた泳者を見ていた。完泳後、役員の用意した毛布を掛けられるが、皆寒さに震えるのみ。ある人はそのまま救急室へバスで送られるきびしいレースであった。

それでも完泳した人は偉い。日本人の完泳者は東京の星野さん、松戸の桐原さん母娘、筑波大の高橋伍郎先生の4人確認した。私と確認出来たリタイヤした人はフルコース・トライアスリート最若者欧州半年転戦の勇者であった。

私の判断が正しかったのか今でも分からないでいる。ドーバー・リレー横断に挑戦は断念している。寒さが待っているから。リタイヤするのはいつも他人で、私ではないということが間違いであるとイギリスまで来て思い知らされた。でも、でも、帰国3日後の熱海オープンウォーター 3.2km を完泳しました。皆が冷たいと言った日本の海は私に温かでした。オープンウォ−タ−の恐ろしさを知った旅でした。スタートラインに立てたことを喜んでいます。皆さまのご意見を下さい。

Copyright(C)1996 MORI Otohiko


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